アイデンティティの管理と保護

クラウドサービスの急速な普及とリモートワークの定着に伴い、システムへのアクセス手段は多様化し、セキュリティリスクはより複雑化しています。これに対応するためには、アイデンティティを中心に据えた包括的なセキュリティ戦略の導入が不可欠です。
本記事では、アイデンティティの基本概念から最新の脅威動向、さらには実践的な対策について詳しく解説し、企業や個人が取るべき具体的なステップを明確にします。
アイデンティティとは?管理と保護の基本概念
アイデンティティとは、オンライン上で個人や組織が特定のシステムやサービスにアクセスする際に、本人であることを証明するための情報を指します。具体的には、企業の従業員が社内システムにログインする際のユーザー名とパスワード、クラウドサービスのアクセス権、生体認証データなどが含まれます。
アイデンティティ管理(Identity Management)は、ユーザーアカウントの作成、アクセス権の割り当て、変更、削除といったプロセスを一元的に管理し、適切なアクセス制御を実現する手法です。例えば、新入社員の入社時に必要なアクセス権を迅速かつ正確に付与し、退職時には不要な権限を即座に削除することで、システムの安全性と業務効率の両立を図ります。
アイデンティティ保護(Identity Protection)は、不正アクセスやアカウントの乗っ取りを防ぐためのセキュリティ対策を指します。通常の行動パターンと異なるアクセスをリアルタイムに検出し、リスクの高い操作には多要素認証(MFA)を要求するなど、動的なセキュリティ制御が求められます。
アイデンティティに関するトレンド
アイデンティティに関する脅威は増加の一途をたどっており、フィッシング攻撃やビジネスメール詐欺(BEC)、クレデンシャルスタッフィング攻撃、クラウド環境の脆弱性を狙った攻撃など、複数の手法で不正アクセスやデータ漏洩のリスクが高まっています。
主な脅威動向
- フィッシング攻撃とビジネスメール詐欺
- 攻撃者は偽装したメールやウェブサイトを利用し、ユーザーに不正なリンクをクリックさせる
- ログイン情報や機密データが窃取されるリスク
- クレデンシャルスタッフィング攻撃
- 過去に流出した認証情報を利用して、各種オンラインサービスへの不正ログインを試行
- パスワードの使い回しが一般的な環境では、被害拡大の懸念
- クラウド環境の脆弱性
- 設定ミスや過剰なアクセス権限付与に起因した機密データへの不適切なユーザーアクセス
- データ漏洩やランサムウェア感染のリスク
セキュリティ対策傾向
こうした脅威に対応するため、AIを活用した異常検知技術の導入が進んでいます。この技術は、ユーザーの通常の行動パターンを継続的に学習し、異常なアクセス試行や不審な操作をリアルタイムで特定することで、従来のルールベースの対策では対応が難しかった未知の脅威にも迅速に対応できるようになります。これにより、インシデントの早期発見と被害の最小化が可能となります。
加えて、多要素認証(MFA)の導入と強化が不可欠です。パスワード認証単体では不十分であり、生体認証やセキュリティキーと組み合わせることで、認証の信頼性を向上させると同時に、利便性を損なうことなくセキュリティを強化できます。特に、FIDO2規格に準拠したパスワードレス認証の導入が進んでおり、より安全かつ効率的なアクセス管理の実現に寄与しています。
アイデンティティ管理と保護の主要対策
IDaaS
IDaaS(Identity as a Service)は、クラウド上でアイデンティティ管理機能を提供し、IDのプロビジョニングやライフサイクルなどの統合管理を実現するソリューションです。シングルサインオン(SSO)により、複数のシステムに一度の認証でアクセスし、多要素認証(MFA)と組み合わせることでセキュリティを強化します。

パスワードマネージャー
パスワードマネージャーは、強力なパスワードの生成・保存・自動入力を行い、複数のアカウント情報を暗号化して管理するツールです。従業員の利便性を確保しながら、管理ポリシーに基づく運用が可能となり、パスワードの使い回しや単純な設定といった不正アクセスのリスクを低減します。

多要素認証
多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)は、知識(パスワード)、所有(スマートフォンやセキュリティキー)、生体(指紋認証など)という複数の要素を組み合わせて本人確認を強化する仕組みです。単一のパスワードでは防ぎきれないフィッシングやクレデンシャルスタッフィング攻撃のリスクを低減します。

特権ID管理
特権ID管理(PAM:Privileged Access Management)は、システムやデータに対する高度な権限を持つアカウントの監視と制御を強化するための手法です。動的なアクセス承認や一時的な権限付与により、攻撃者に狙われやすい特権アカウントのセキュリティを確保しながら、業務の柔軟性も維持できます。

Active Directoryの脅威検知
Active Directory(AD)は、組織の認証およびアクセス管理の中心的な役割を担う重要な基盤ですが、不適切な設定やアカウントの侵害は深刻なセキュリティリスクをもたらします。攻撃者は権限の不備や認証情報の漏洩を悪用し、不正アクセスや権限昇格を試みるため、異常な認証試行や権限の変更、不審なログインパターンのリアルタイム検出が求められます。

シークレット管理
シークレット管理は、APIキー、認証トークン、証明書などの機密情報を安全に保管し、アクセス制御を強化する手法です。暗号化による保護、アクセスログの監視、自動ローテーション(期限付きのアクセス許可、自動無効化)を実施し、運用負荷を軽減しながら、強固なセキュリティ体制を維持できます。

アイデンティティ保護に関する相談はネットワールドまで
本記事では、アイデンティティ管理の基本概念から、最新の脅威動向、実践的なセキュリティ対策に至るまでを詳しく解説しました。サイバー攻撃の標的となるアイデンティティを保護するためには、IDaaS、多要素認証(MFA)、特権ID管理(PAM)などのソリューションを導入し、不正アクセスの防止と利便性の両立を図りながら、セキュリティの強化を実現することが不可欠です。
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